個別性への取り組み

One & Only 4

ビアンカ - 父との暮らしを続けるなか、脳腫瘍が発覚した42歳女性 –

「もう一度あの生活を取り戻す 」

⑴ ビアンカさんは肺が悪いお父さんと2人暮らしであり、家のことを一手に引き受けていた。 お父さんの介護もしつつ仕事にも行っていたビアンカさんは、ある朝、頭が痛くなることや吐き気を感じることがあった。 だが、ビアンカさんは家のことと仕事による疲れだろうと思い、特に気にかけてはいなかった。 しかし、吐き気が落ち着くことはなく、しゃべりづらさや、手の動かしづらさを感じるようになったため病院へ行った。 診断結果は脳腫瘍であり、すぐに手術を受けた。
 腫瘍は一部残った状態で退院となった。腫瘍の摘出に伴い思うように言葉が出なくなり、右半身に痺れが現れた。 さらに数時間前のことを思い出せず、小学校で習った漢字も読めないことがあった。 そんな状態をビアンカさんはすぐには受け入れることができず、「退院してから私はどうすればいいんだろう」 と口にされ、訪問リハビリが開始となった。

⑵ 家に帰ってからも「こんな体じゃお父さんの世話もできないし、 20年間も続けてきた仕事ももう辞めないといけないのかな」と悲嘆することが多かった。 病気になる前、お父さんから「世話してもらって悪いな」と言われても 「まだ42歳で若いから大丈夫だよ」と笑いながら話していたときが懐かしく、 あの頃に戻りたいと思い泣いてしまうこともあった。 そんな折、ビアンカさんから「いま私にできることがあるかな」と話してくれた。 思いは変わらず、家のことをすることと再び働き始めることであった。 そのなかで本人から、「もう一度自転車に乗りたい」との希望があった。

⑶ 自転車を漕ぐために、まずは乗り降りから始め、 地面を蹴る練習や運転のために必要なバランスの取り方などを何度もトライした。 一緒に練習するようになってからのビアンカさんは、もう後ろを向いておらず 「あぁ悔しい。もう1回やってもいい?」と積極的であった。 また、家事のことはヘルパーさんと作業療法士による訪問リハビリで少しずつ感覚を取り戻すことができた。 そのため、社会との交流を増やすために半日のデイサービスにも行くようになった。 そこで出会ったご利用者さまがビアンカさんと似た境遇であり、 その方から「ビアンカさんも就労継続支援に行ってみたらどう?」と言われた。 その言葉に刺激を受け、自分も働くことができるんだと自信が湧き、働きたいという思いが強くなっていった。

⑷ その後も練習を続け、家の近くのスーパーを往復できるまでになったことで訪問リハビリは卒業となった。 しばらくしてビアンカさんから手紙が届いた。そこには就労継続支援で働いていることが書かれていた。 最初は仕事ができるか、環境になじめるか不安だったようだが、いまはそういう思いは無くなっているようであった。 またお父さんのことも書いてあり、たまに一緒に買い物へ行ったりと、 前より家のことを進んでしてくれているようであった。 最後に「今度わたしが作ったパン食べに来てね!」とも綴られていた。