個別性への取り組み

One & Only 5

ブランタン - セカンドオピニオンの結果、脳腫瘍と診断された86歳女性 –

「母との最期の過ごし方」

⑴ 「退院したいけど、まだあかんね」とリハビリでうまく歩けないことに対し思いを口にされるプランタンさん。 「そんなことないよ。一緒に家に帰ろ」と返す息子さん。

 母が転んで骨折し入院したことを病棟の看護師から聞いた。 プランタンさんは夫を亡くしてからさらに気弱になっていたため、 自分が支えなければと思い、急いで飛行機でやって来た。 手術は無事に終えたものの、リハビリでふらふら歩く様子を見て息子さんは、「ただの骨折とはなにか違う気がする」 と思い主治医に相談したが問題はないと言われていた。 息子さんは納得できず、母のためにできることはやろうと決意し、 外泊を利用しセカンドオピニオンに行った。医師の診断は末期の脳腫瘍であった。 プランタンさんの性格を考え、検査の結果は自分のみに告げてもらうようにお願いしていた。 病室に戻ってきたが、どうすることがいいのか分からず、 プランタンさんに「もう退院してもいいみたいだからおうち帰る?」と聞くと 「帰りたい」と言ったため在宅で看取る決心をした。 看取る体制を整えるための訪問看護と、拘縮を予防することで介護量を軽減するためのリハビリも開始となった。

⑵ 自宅に帰り、ほっとしたような表情を見せたプランタンさんに息子さんは勇気づけられた。 この頃にはもう寝たきりの状態で、返事くらいでしか言葉を発せず、食事も徐々に食べられなくなってきていた。 「母はお風呂が好きで、体が温まるとこころもホッとするんだって」と息子さんが教えてくれた。 自宅でのケアには息子さんも一緒に参加し、プランタンさんのことをいろいろと話してくれた。 息子さんとのやりとりがプランタンさんにも伝わったのか、 笑顔で「えへへ」とつぶやくこともあれば、涙を流されることもあった。

⑶ 病気が進むにつれ、せん妄が現れ始め突然声を上げたり泣き出したりすることが増えた。 体を左右に動かしたり、顔をしかめたりと身の置き所を探していることもあった。 息子さんはそんな姿に初めは戸惑っていたが、病気によるものだと理解できると、徐々に受け入れられるようになった。 プランタンさんが苦しそうなときは、マッサージをしたり、リラックスできる音楽を流したりと、安らげる方法を一緒に探した。 声の大きさや体の動きが落ち着くと「少しでも楽になったのかな」と嬉しそうに話してくれた。 また、苦しみから少しでも解放されるとプランタンさんは柔らかな表情を見せることもあった。

⑷ ある朝、息子さんから電話がありすぐに駆けつけた。

 「息が止まっているなって思ったのと同時に、さよならなんだなと冷静に感じた」と話してくれた。 「末期って分かってても少しでも良くならないかなって期待してごはんの献立を考えてたな。 着替えとかおむつ換えるのはすぐに慣れたけど、経管栄養は難しかったな。 周りからは大変だねと言われてたけど、いつでも母の顔が見れたし、 看護師さんの時間にあわせて買い物や役所とかに行けたから、ここまでできたんだと思う。 母の安心した顔を見ると本当に家が好きだったんだなって思うよ。いろいろありがとう」 と医師が来るまでの間、プランタンさんとの暮らしを一緒に振り返った。